学部長メッセージ

岩手大学理工学部 学部長   八代 仁

岩手大学理工学部 学部長 八代 仁

求む ソフトパスの創造者

 かつて日本にはあらゆる社会構造において集中と拡大が大きな流れだった時代がありました。一方今日では、頻発する自然災害、少子高齢化による地方衰退など、様々な課題が目立つようになっています。逆にこれらの課題は、次に私たちが向かうべき方向を明示しているともいえるでしょう。

 集中と拡大に代わるべき方向とは何でしょうか。一見効率的にみえた一極集中型の社会構造は、もろくて不安定なものでもありました。平成の時代に私たちは自然の威力について十分学びましたし、地球温暖化の脅威も肌で感じ始めています。集中と拡大に代わっていま求められているのは分散と安定であると考えられます。

 私たちはこれからどのような社会を築くべきか?この問いかけが、理工学部で学ぶみなさんに無関係であるはずがありません。分散と安定を志向する社会を構築するためには、科学に裏付けられた様々な技術が必要です。例えばエネルギー。私たちが安心して地域に暮らすためには、まず食料とエネルギーが必要です。地域の特長を活かした再生可能エネルギー(ソフトエネルギー)をどのようにして地域に定着させるか・・・、技術者の知恵が必要です。例えば交通手段。高齢者による事故が急増する中、どのような地域交通網を構築するか・・・、やはり技術者の知恵が求められます。例えば情報通信。今日注目されているAIやIOTの技術を社会に実装できるのは技術者しかありません。幸福感だって、科学と無関係ではありません。みなさんは、はやぶさ探査機の帰還に拍手喝采しませんでしたか?知の蓄積を社会に幸福感として還元できるのも、科学者の特権です。

 岩手大学理工学部は、かねてから安全安心な社会構築への貢献を教育研究の理念として掲げてきました。この理念は、「ソフトパス理工学」という本学部の標語に込められています。ソフト=柔軟で優しい→持続可能。パス=(目標への)道→(目標達成のための)技術。ソフトパス理工学を実践するためには、ソフトな学力も必要です。数学者の森毅は、その著「東大が倒産する日」(ちくま文庫)で、当世の学生は「(ハードな学力獲得には熱心だが)ソフトな学力が落ちている」と指摘しました。ソフトな学力を「文化力みたいなもの。心の広がりとか文化的な関心とか。」、ハードな学力を「細分化された専門知識、特に資格などに直結するもの。」と述べています。

 ハードな学力が不要なわけではありません。しかし、それだけではみかけの効率一辺倒の集中と拡大の轍を繰り返す恐れがあります。時に立ち止まって考えるしなやかさをもったソフトな人材がいまこそ求められているのです。ソフトパス理工学を理念とする本学部で新たなみち(道、未知)に挑戦してみてください。

概要